タイポグラフィについて

タイポグラフィ(typography)とは、と一言で説明するのは難しいですが、敢えて言えば「既存書体を効果的に扱う方法」の総称です。何を持って「効果」とするのかは当然ながらケースバイケースで、その時その目的に合っていればそれでいいのでは、と個人的には思います。

用語の解説

日本では以下の言葉が「タイポグラフィ」と一緒くたにされている感があるので、ちょっと解説させていただきます。

レタリング lettering

文字を描く事。「書く」のではなく「描く」としている事に注意して下さい。つまり普通に手書きするのではなく、輪郭から描き起して文字を形作る事です。短い文、例えば書籍のタイトルや企業名などを、既存の書体を使用するのではなく、一から描き起していく行為を指します。

ロゴタイプデザイン logotype design

企業や商品などの名称を、個性的な文字の配列によって作成していく事。日本ではレタリングによってオリジナルを描き起すべし、という風潮がデザイナーの間ではかなり根強いですが、海外の企業を見ると、既存の書体を普通に組んで、ほんの少し手を加えただけというものもかなり多いです。Microsoftなどそうですよね。欧文書体は何万もの種類があるのに、なぜ新しく描き起す必要があるんだ、という合理的な考えです。まぁたいていのアイディアは出尽くしていて、自分でオリジナルに描き起したつもりでも、似た書体がすでにあったという事は欧文ではよくあります。

日本にある欧文のロゴタイプで、あまりに変形していて文字として読めないものを時々見かけます。当たり前ですが、欧文でもネイティブの方々にとってはあくまで「文字」なので、間違いなく読める必要があります。見た目の面白さだけを追ってはいけません。東京キー局のTBSが昔使用していたロゴは、「ネイティブが読めない」として有名でした(笑)。現在「ドリーム・プレス社」という番組でまた使用されていますが、これは左から「小文字筆記体のs」「数字の3」「文字でない何か」に見えていたそうです。こんな笑えない事態に陥らないように。

「ロゴタイプ」は元々活版印刷用語で、頻出する単語をいちいち組むのが面倒なので、単語単位で活字を鋳込んで一つの活字にすることがあり、これを「ロゴタイプ」と呼んでいました。日本でも戦時中、新聞用の活字に「B29」という文字を1文字サイズに鋳込んであるを見たことがあります。これもロゴタイプの一種でしょう。

それとCI・VIの所でも書きましたが、シンボルマークとロゴタイプは別物です。

タイプデザイン type design

いわゆるフォント・書体を開発する行為を指します。必要な記号類を含め、一字一字レタリングによって作っていきますが、様々な字の組み合わせに対応できるようにするのがレタリングやロゴタイプデザインとの大きな違いとなります。例えばMicrosoftのロゴタイプを作る場合、この文字の組み合わせで100点の出来になるよう注意して作りますが、タイプデザインは「Microstoft」「Adobe」「IBM」など、どのような文字の組み合わせでも80点ぐらいの出来にはなるようにデザインします。それには字間のアキ(カーニング kerning)の調整が非常に重要で、文字そのもののデザインよりも時間がかかったりするようです。

タイプデザインの真骨頂は本文用書体です。書籍のような長文を組んでも、誰が読んでも疲れず違和感ないようデザインするのは非常に難しい作業です。奇抜なデザインのディスプレイ書体の方がまだ楽に作れます。しかし本文用書体は、最も成功した時が最も目立たないというのがちょっと寂しい所ではあります。ですが優れた書体は100年200年と持つものです。Hermann ZapfやAdrian Frutigerの名は、CaslonやGaramondなどと同じように、今後間違いなく何百年も残っていくでしょう。その歴史に名を刻めるというのは、大変な名誉だと思います。

カリグラフィ calligraphy

文字をペンや筆で書く事です。と言ってもただ普通に書くのではなく、特殊なペンと技法により、装飾的な文字を書く行為を指します。中世ヨーロッパで聖書を書写する事から発展してきました。現在ある文字の骨格やシルエットは、この頃に出来上がったものを踏襲しています。日本では「西洋書道」という呼び名もあります。


ヘタだ…マーカーは難しい

日本や中国の書道も、欧米では「calligraphy」と訳されています。これら東洋書道を解説した洋書も当然ありますが、例に出ている漢字が1画多かったり少なかったりと、ちょっと微笑ましかったりします。

このページは、書こうと思えばいくらでも書けそうな気がします。おいおい、いろいろ追加していきます。

タイポグラフィはとかく知識のみに陥りやすい分野で、小難しい論文を書いたり読み説いたりするのを得意とする人がいます。ま、知識として勉強するのを止めやしませんが、それを現場に持ってきてアレコレ言うのは間違いでしょう。研究はあくまで現場で起こっている事をまとめあげるべきで、研究の場から現場へ逆流させるのは良くないです。テクノロジーとは違うのですから。現場のデザイナーはあくまで見た目の効果を優先させ、マナーやバックグラウンドを先に持ってくるべきではないと思います。