タイポグラフィについて

タイポグラフィ(typography)とは、と一言で説明するのは難しいですが、敢えて言えば「既存書体を効果的に扱う技法」の総称です。何を持って「効果」とするのかは当然ながらケースバイケースで、その時その目的に合っていればそれでいいのでは、と個人的には思います。例えば書籍の本文と広告では、同じ組み方でいいはずがありません。その時々で効果を考えて書体を選び、それぞれの書体が効力を発揮するように組む事を考えるのがタイポグラフィです。「タイポグラフィとは思いやりでしょうか」とおっしゃった方がいます。その意味をよくお考え下さい。

社交用の招待状やディプロマ(賞状類)など、ケースによっては厳格なマナーやルールなどが存在し、それに従う事が求められる場合もありますが、そのようなケースは余り多くはありません。また、殊にその書体の生まれた国や時代などのバックグラウンドを熟知していなければならず、そういう知識がなければタイポグラフィはできないと主張する人がいますが、そんなの非常にごく限られた一部の人が言っているだけで、全然そんな事はなく、基本的なルールを尊守すれば、あとは自由です。しかし、そういう国や時代の雰囲気を出したいという事であれば話は別で、それらの知識が必要になる事もあるでしょう。ですが、それもやはり最初に申し上げた通り、「効果を考えた上でのケースバイケース」の「ケース」のひとつでしかありません。その辺りを誤解しないで下さい。

用語の解説

日本では以下の言葉が「タイポグラフィ」と一緒くたにされている感があるので、ちょっと解説させていただきます。

レタリング lettering

文字を描く事。「書く」のではなく「描く」としている事に注意して下さい。つまり普通に手書きするのではなく、輪郭から描き起して文字を形作る事です。短い文、例えば書籍のタイトルや企業名などを、既存の書体を使用するのではなく、一から描き起していく行為を指します。

ロゴタイプデザイン logotype design

企業や商品などの名称を、個性的な文字の配列によって作成していく事。日本では既存書体を使うなぞもってのほか、レタリングによってオリジナルを描き起すべし、という風潮が非常に根強いですが、海外の企業を見ると、既存の書体を普通に組んで、ほんの少し手を加えただけというものもかなりあり、特に高級ブランドなどのロゴは、ほぼ既存書体そのままのものが大変多いです(もちろん組み方にかなり注意を払っていますが)。欧文書体は何万もの種類があるのに、なぜ新しく描き起す必要があるんだ、という合理的な考えです。まぁたいていのアイディアは出尽くしていて、自分でオリジナルに描き起したつもりでも、似た書体がすでにあったという事は欧文ではよくあります。

Louis Vuittonロゴ
FuturaそのままのLouis Vuittonロゴ

日本にある欧文のロゴタイプで、あまりに変形していて文字として読めないものを時々見かけます。当たり前ですが、欧文でもネイティブの方々にとってはあくまで「文字」なので、間違いなく読める必要があります。見た目の面白さだけを追ってはいけません。東京キー局のTBSが昔使用していたロゴは、「ネイティブが読めない」として有名でした(笑)。こんな笑えない事態に陥るぐらいなら、既存書体の中から良いものを選んで使う方がずっとマシです。オリジナリティを出したいと言うデザイナーのエゴよりも、クライアントの利益を考えて下さい。

既存書体でロゴを作って問題ないのかという質問もよくありますが、JAGDA発行の著作権Q&A集によれば、問題ないとの事です。手を加えて変形させるのも可。ただし、まったく手を加えていないものは商標登録ができず、使用制限をかける事ができません。他者が同じ既存書体を使ってロゴを作っても、それをやめさせることはできないという事です。

「ロゴタイプ」は元々活版印刷用語で、頻出する単語をいちいち組むのが面倒なので、単語単位で活字を鋳込んで一つの活字にすることがあり、これを「ロゴタイプ」と呼んでいました。日本でも戦時中、新聞用の活字に「B29」という文字を1文字サイズに鋳込んであるを見たことがあります。これもロゴタイプの一種でしょう。

それとCI・VI・BIの所でも書きましたが、シンボルマークとロゴタイプは別物です。

タイプデザイン/タイプフェイスデザイン type design / typeface design

いわゆるフォント・書体を開発する行為を指します。フォントとは、我々が普段何気なく文書などを組む時に使っている、たくさんの文字が入ったファイルのことです(正確には違いますが、長くなるのでここでは端折ります)。WindowsのメイリオやMacのヒラギノなどがそうですね。必要な記号類を含め、一字一字レタリングによって作っていきますが、様々な字の組み合わせに対応できるようにするのがレタリングやロゴタイプデザインとの大きな違いとなります。例えばMicrosoftのロゴタイプを作る場合、この文字の組み合わせで100点の出来になるようにしますが、タイプデザインは「Microstoft」「Adobe」「IBM」など、どのような文字の組み合わせでも80点ぐらいの出来にはなるようにデザインします。それには字間のアキ(カーニング kerning)の調整が非常に重要で、文字そのもののデザインよりも時間がかかったりするようです。

タイプデザインの真骨頂は本文用書体です。書籍のような長文を組んでも、誰が読んでも疲れず違和感ないようデザインするのは非常に難しい作業です。奇抜なデザインの書体(通常『ディスプレイ書体』と呼ばれる)の方がまだ楽に作れます。しかし本文用書体は、最も成功した時が最も目立たないというのが、ちょっと淋しい所ではあります。

フォント制作には専用のアプリケーションが必要です。昔はIkarusというものが主流だったようですが、現在は DTL (Dutch Type Library) のFontToolsやFontLabのFontLab Studio、Fontgrapherなどが用いられているようです。

カリグラフィ calligraphy

文字をペンや筆で書く事です。と言ってもただ普通に書くのではなく、特殊なペンと技法により、装飾的な文字を書く行為を指します。中世ヨーロッパで聖書を書写する事から発展してきました。現在ある文字の骨格やシルエットは、この頃に出来上がったものを踏襲しています。日本では「西洋書道」という呼び名もあります。

専用ペンで書いたイタリック(宮里作)

日本や中国の書道も、欧米では「calligraphy」と訳されています。これら東洋書道を解説した洋書も当然ありますが、作例の漢字の線が1本多かったり少なかったりして見たことない字になってる事が結構あり、ちょっと微笑ましかったりします。

このページは、書こうと思えばいくらでも書けそうな気がします。おいおい、いろいろ追加していきます。

タイポグラフィはとかく知識のみに陥りやすい分野で、小難しい論文を書いたり読み説いたりするのを得意とする人がいます。ま、知識として勉強するのを止めやしませんが、職人はまず手を動かしましょう、と思います。

Gradl Initialen
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