古い紋章をなんかのロゴとして使いたい、という要望があったりするようだが、結論から言うと止めた方がいい。

森護著『西洋の紋章とデザイン』では、日本のとある企業がオランダ国王の紋章をほぼそのまま使って問題になったケースを紹介している。盾の中の図柄(charge)を変更して逃れようとしたが、これも認められなかったようだ。これは現行で使用しているものなのでもちろん著作権違反となるが、どんなに古い紋章でも、ひょっとしたら継承者が現存している可能性があるので、そのままはもちろん、一部改変などして使用するのも控えた方がいいだろう。著作権うんぬん以前に、「その紋章の家が関わっている」と勘違いされてしまうからだ。これは避けねばならない。

また紋章の特殊な傾向として、「描かれているもののモチーフと色が同じなら、形が違っていても同じものとする」という事がある。紋章はそのデザインを説明する blazon ブレーゾンという独特な口上方法があり、それに則っていればそれは同じものになる。例えば英国王リチャードI世の紋章は

Gules, three lions passant guardant or in pale
gulesの地に、縦に並ぶin pale3頭の歩いているpassant正面向きのguardantorのライオン
(ブレーゾン的に正しいかどうかは不明・笑)

なのだが、これは盾の形やライオンのデザインが多少変わろうとも、この色とこの姿勢である限り、たとえ中のライオンのデザインがポン・デ・ライオンだろうとも「同じもの」とされる(極端だけど)。

Royal Arms of England (1198-1340)
リチャードI世の紋章
この紋章は現英国王(=エリザベス女王)の紋章の
第1、第4クォーターに入っている

ものさしとぶんまわし(=コンパス)でまったく同じデザインが再現できる幾何学的な日本の家紋とは違い、図柄が大変具象的なので、描く人によって大きな違いが出るためにこういう考え方になったのだと思われる(コピー技術がなかったので人が描くしかなかった)。この違いを全部「違うもの」としてしまうとエラい事になるので、「ブレーゾンで説明して同じなら同じ」という事になっている。色についても同様で、詳説はさておき、使える色は9色と限定されており、その既定も大雑把である。例えば大多数がおよそ赤と認識できる色はすべて「赤(gules)」とされ、彩度や明度の違いは考慮されない。よって「ウチの紋章の赤はDICの何番だ」とかいう指定はすべて無効である。これも印刷・コピー技術が発達していなかった頃の名残である。なので、多少の形や色の変更で著作権から逃げられるとは思わないこと。

また同書には、正式に紋章の使用権を得た例も紹介している。同書内では「バーソロミュー社のクラン・マップ」と紹介されているスコットランドの紋章を網羅した地図の中から紋章を選び、それを使用してグッズを作った例がある。ちなみこの地図は現在も Harper Collins 社から発行されていて入手可能。

何でもそうだが、「正式に許可さえ得ればなんだって使用可能」である。当たり前といえば当たり前なので、くれぐれも無断使用は控えるよう。30年くらい前の本の情報で今もそうかは不明だが、割と好意的で良心的な額で貸してくれるようである。もしホントに使いたかったら正式な手続きを取ろう。といっても、どこに問い合わせればいいのやら(笑)。上記の地図の場合は出版社に問い合わせたようだが...。

Shodo Gothic
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