最近、故あって西洋紋章について調べている。紋章はよく emblem エンブレムや crest クレストなどと呼ばれるが、正式には coat of arms コート・オブ・アームズという。んで紋章学全般を heraldry ヘラルドリーといい、何で名前が一致してないのかは不明。隊の長を組長と呼ぶ新撰組方式なのかもしれない(違う)。紋章についてはMG西欧カリグラフィースクールでも学べるように、なぜかカリグラフィーとは一緒に教えられている事が多い。まぁ、どちらかに興味を持つ人はもう一方にも興味を持ちやすいのだろう。私がそうだしね。

調べてみて思ったのは、想像通りかなり奥が深いという事。日本の家紋とは違い、個人紋、つまり一人にひとつずつであり、そのデザインにダブりは一切許されない(家督相続人だけがそのまま継承し、兄弟は部分的にデザインを変える)という厳しいルールがあるので、そのバリエーションたるや凄まじいものがある。どうやってダブりチェックしてるかというと、なんと登録制だそうだ(その管理はイングランドでは College of Arms、スコットランドでは The Court of the Lord Lyon で行われている)。家紋のように勝手に使うことはまったく許されてないらしい。しかも使用できるのは貴族・騎士・郷士に限られているという(国章や市章の他、ギルドなどの団体が使うことはある)。紋章を管理する紋章官は、勝手に使用されている紋章を引っぺがすどころか、掲げている館そのものを叩き壊すほどの権限が昔はあったらしい。おおコワ。

その他使用できる色が決まっていたり(調べてみて思ったがヨーロッパの国々の国旗は、紋章の彩色ルールと合致している。どっちが先だったかは不明)、いろいろ興味深い情報盛りだくさんだが、もし興味のある方は以下の本を参照すると良い。

この本は1979年初版だが、日本にはこの本以前に紋章について著された本はなかったらしい。本邦初の紋章の専門書であり、かつ未だにこれ以上に詳しい本は存在しない模様。つまり、著者の森護氏はいきなり決定版を出してしまったのである(この時すでに紋章研究20年だったらしい)。なぜこれを超える本がないかというと、この本ですでにその紋章のフォーマットについては語り尽くされており、何百年も前からそのルールが決まっている事なので、新しく情報を追加する必要が生じないからである。じゃあ紋章学とはなんぞや、というと、誰それがいつどんな紋章を使っていたか、その系譜を辿り、分類・整理することが主眼らしい。使用が貴族・騎士・郷士に限られているという事は、自然その国の歴史を深く掘り下げる事になる。そうなるとほとんど歴史学となってくるので、そこについては別書をあたってねという事だ。

この本は現在絶版で古書店でしか入手できないが、実は版を変えたものが2種存在する。

実はこちらも現在絶版(笑)。三省堂版はB5サイズだが、こちらは四六判に変更され、カラー図版も減らされている。よって、あんまり購入する価値はない。

こちらは最近タイトルを変えて復刻されたものだが、値段が32,000円(+税)となかなか法外な値段が付いている。三省堂版も元々の値段は12,500円と、'79年当時の物価を考えると結構なお値段だが、現在古書市場で4,000円程度なので、そっちを購入した方がお得だと思う。

ちなみに同じ著者のこんな本もある。

こちらはまだ絶版ではなく、新刊が購入可能。前著の簡易版という感じで、情報量は減らされてるものの、ほぼ同内容。追加情報として、あちこちの企業が使ってる紋章っぽいロゴをあれがおかしいこれがおかしいと指摘している。まぁこれでもいいんだが、おそらく興味のある人はこれでは満足しないだろう(私がそうだし)。やっぱり三省堂版を探した方が良いと思う。

ちなみに三省堂版は、写真以外の線画の図版が凸版印刷である。その証拠に、所々図版の形に紙が凹んでいるのが見られる。本文が活版かどうかは定かではないが。マンガ雑誌は最近まで樹脂による凸版印刷だったらしく、当時はそんなに珍しくはなかったのだろう。

著者の森護氏は他にも多数紋章関係の書籍を発表してるが、2000年に亡くなられたそうだ。お会いしてみたかったなぁ。残念。

Neona
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