なんかちょいちょい「ローマンキャピタル」で検索があるので、それについて書いてみる。

ローマンキャピタル Roman Capital とは直訳すると「ローマの大文字」で、主にはローマ時代の遺跡に刻まれている碑文の書体の事を指す。数多くある中でもトラヤヌスの記念柱の根本に刻まれた碑文は、その美しさと字種の多さで出色の出来とされており、欧米のタイポグラフィの教科書を開けば、たいてい最初にこの碑文を「これこそがすべてのローマン体の起源である」として紹介している。

これを元に Times Roman をはじめ、様々なバリエーションのローマン体が作られたとされている。上図の書体はこの碑文に極力近い形でデザインされたもので、他にも同じコンセプトでデザインされた書体は数多くあるが、この Trajan が一番ポピュラーである。Adobe のソフトを購入すると自動的に付いてくるので、持っている人はかなり多いと思う。慣れない目には退屈でしょーもない普通の書体にしか見えないが、大量に様々な書体を目にしていると、一周回ってこの美しさに回帰する。これの良さが解るようになれば、取り敢えず一つ上の段階に上がれたと自負していいと思う。食通ぶって「お米っておいしいよね」みたいな事を言う感じだろうか(笑)。

この碑文と書体に関しての文献は、和書では以下のものがほとんど唯一だと思う。色々な研究論文をひもといているほか、著者は実際にローマに赴き、この碑文の拓本を採っている。

カリグラフィーで書く

さてこのローマンキャピタル、レタリングでは当然書けるが、実はカリグラフィーにもある。2種類あって、ひとつは通常のカリグラフィーペンで簡易的に再現したもので、もうひとつは平筆でもって当時の書体そのままを再現するものである。平筆バージョンは筆の動きが非常に繊細で、見た目の単純さとは裏腹に、数あるカリグラフィー書体の中でも最高難度を誇っている。ちなみに私は2年以上練習しているが、まだマトモには書けない。それぐらい大変な書体である。

この書体を得意としているカリグラファーは何名か知っているが、日本人では白谷泉さんがほとんど唯一ではないかなという気がする。この白谷さんが書き方を解説している本が、以前も紹介した以下の本である。

現在入手できる和書では、これがもう唯一だろう。以前は以下の本もあったが、こちらは現在絶版である。古書でも入手可能だがこの本は大変な良書なので、なんとか復刻してもらいたいもんである(原書は現在でも入手可能)。

欧米にも優秀な書き手が当然ながらおり、John Stevens、Julian Waters、Tom Kempなどである。カリグラフィーの参考文献としては、以下のものがいいだろう。ローマンキャピタルの書き方を解説した本としては、筆者が知るかぎり一番詳しいものだと思う。ただしアメリカの John Neal Bookseller と著者のサイトぐらいでしか入手できないので、購入には英語でのやり取りが必須となる。注意。

以下の本はこの書体の研究者としてつとに著名なエドワード・カティチ神父のもので、初版は1968年と古い本である。こちらはちょっとマニアックなので、好きな人だけどうぞ。

ちなみに筆は、ホルベインの500Hというものが使いやすいと思う。毛の質が適度に固く、きちんと平たく揃いやすい。

石に刻む

「碑文」というからには、もちろん石に刻む方法がある。平筆でもって下書きした後に鑿(のみ)とハンマー(専用の dummy という変型ハンマーが用いられる)で刻むのだが、和書の参考書は皆無である。洋書であれば、カリグラフィーのバイブル、Writing, Illuminating and Lettering にも一応解説があるが、以下の本がかなりオススメ。非常に美しい作例が大量に掲載されており、見ているだけで楽しめると思う。道具はカリグラフィーと同じく、John Neal で入手可能。著者の Tom Perkins のサイトはこちら。左利きのカリグラファー、Gaynor Goffe と共同のサイトである。

Aston
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