以前にもちろっと書いた事があるが、10年以上前、TeXにハマっていた事がある。TeXが何かと簡単に言うと、文書作成用のHTMLみたいなもんで、DTPのように直接見た目をレイアウトするのではなく、マークアップにて文書の体裁を指定して、その指定に従って自動的に組版を行うシステムだ。

これを開発したのはDonald E. Knuthという学者で、印刷業界にコンピュータが導入された頃に自著を組んでもらった所、数式のあまりの出来の悪さにアタマに来て、自分でシステムを組んでしまったという。古今のタイポグラフィ関連の文献を読み漁り、何と自分でフォントまでデザインしてしまった。このフォントがMETAFONTという特殊なもので、これも一種のプログラミング言語なのだが、基本的な骨格をプログラミングした後、パラメータをちょちょいと変更すると、セリフ、サンセリフ、スラブセリフ、さらにはイタリック、ボールドなどのウェイト違いなどを何と自動で生成するというものだった。生成されるフォントは現在主流のスケーラブルフォントではなく、サイズごとにビットマップで生成され、小さいサイズはカウンターを大きくしてあるなど、サイズに配慮したデザインに自動的になるよう調整もされる。ここまでやってようやく安心したKnuth先生は、自著の執筆に取り掛かったという。

こんな人がいるんだ、とメチャメチャ驚愕したのは言うまでもない。天才というのは恐ろしい。遥か彼方にいて、到底届かないなと思った。Knuth先生は、私にプログラマーを諦めさせ、同時にタイポグラフィの面白さを教えてくれた人である。これをやってたからHTMLが全然苦にはならず、Webデザイナーへの道も比較的楽だった。TeXに出逢わなければ、デザイナーになってないんじゃないかなーと思う。

このTeXは計算機科学をやっている人にはかなりおなじみのシステムで、論文執筆はこれでやるのが普通である。American Mathmetical Society (AMS)などはこれでないと論文を受け付けないという。それほどまでに普及している。

驚いたのは、このTeXのAMS用の数式記号を、Hermann Zapfさんがデザインしていた事だ。Knuth先生のサイトのDownloadable Graphicsのページには、Zapfさんのカリグラフィ作品が掲載されている(ヨハネの福音書3章16節)。どんな分野でも、トップにいる人たちと言うのはどっかで繋がってるんだなぁ。

ようやく本題。

しつこいようだが、最近私はフィドルを習っている。

楽譜は印刷物のコピーを配布されるのだが、たまに手書きだったりする。またThe Sessionというサイトを見つけたのだが、ここで配布されている楽譜は解像度の低い画像で、見るに堪えない。

何とか楽譜を綺麗に組み直したいなぁ、と思っていたのだが、楽譜を組むためのアプリケーションというのはものすごく少ない。が、TeXに楽譜制作用のマクロがあるのを思い出した。早速ネットで探し、MusixTeXというものがあったので、TeXとそれをインストール。TeXを使うのはものすごい久しぶりだ。

綺麗さっぱり使い方を忘れていたが、試行錯誤の上、できたのがこれ(PDF)。そこそこ満足いくデキである。

TeXで生成されるファイルはDVIというフォーマットなのだが、よくしたもんで、これをPostScriptやPDFに変換するプログラムも無料で配布されている。ビバTeX。

ところでこの楽譜は、以下のように記述されている。

\input musixtex
Paidin O'Rafferty
\instrumentnumber1
\generalmeter{\meterfrac68}
\generalsignature2
\nobarnumbers
\startmuflex
\startpiece
\leftrepeat\Notes\Tqbl kmm\Tqbl jll\en\bar
\Notes\Tqbl klm\Tqbl nml\en\bar
\Notes\Tqbl lmm\Tqbl jll\en\bar
\Notes\Tqbl kml\Tqbl kih\en\bar
\Notes\Tqbl kmm\Tqbl jll\en\bar
\Notes\Tqbl klm\turn q\qlp n\sk\en\bar
\Notes\Tqbl omk\Tqbl nml\en\bar
\Notes\Tqbl kml\Tqbl kih\en\leftrightrepeat
\Notes\Tqbu hfh\turn p\qu h\sk\cl m\en\bar
\Notes\turn q\qlp n\sk\Tqbl mki\en\bar
\Notes\turn q\qup h\sk\Tqbu hfh\en\bar
\Notes\Tqbl kml\Tqbl kih\en\bar
\Notes\Tqbu hfh\Tqbu igi\en\bar
\Notes\Tqbl lml\Tqbl lmn\en\bar
\Notes\Tqbl omk\Tqbl nml\en\bar
\Notes\Tqbl kml\Tqbl kih\en\leftrightrepeat
\Notes\Tqbl moo\Tqbl loo\en\bar
\Notes\Tqbl klm\Tqbl nml\en\bar
\Notes\Tqbl mhh\Tqbl lhh\en\bar
\Notes\Tqbl kml\Tqbl kih\en\bar
\Notes\Tqbl moo\Tqbl loo\en\bar
\Notes\Tqbl klm\turn q\qlp n\sk\en\bar
\Notes\Tqbl omk\Tqbl nml\en\bar
\Notes\Tqbl kml\Tqbl kih\en\rightrepeat
\mulooseness=1
\stoppiece
\endmuflex
\end

「ふっかつのじゅもん」並みに意味が解らんが、これがああなる。まぁIllustratorのファイルもテキストエディタで開いてみればこんな感じだが。「全然大丈夫だぜ!」という人、ぜひTeXを使ってみて下され。

そういえば、いつの間にか楽譜がちょっと読めるようになってるなぁ。今までまったく読めなかったのに...人間何でもやればできるもんだ。

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