ワークスコーポレーションより『文字は語る』という本が発行された。DTP WORLD で連載されていた同タイトルの記事や、その他文字に関する記事を集めたもの。小林さんや高岡さんもちょりっとだが出演。この本には、『文字を知るための一冊』として参考文献が15冊紹介されている。この内10冊を持っていた(しかも残り5冊を入手しようと画策している)私はアホですか(笑)。

文字は語る

持っている10冊の内でも異色なのが、今井直一著『書物と活字』。1949年初版という古い本だが、未だこの視点からタイポグラフィを論じた本は(日本では)ないんじゃなかろうか。何が変わってるかというと、そのページのほとんどを文字の視認性や可読性についての科学的分析に割いている所だ。人の文字を読む速度、眼球の動き、マバタキによる変化、文字のサイズと書体、環境光の明るさなどによる読みやすさの変化などなど、海外の研究結果の引用による所が多いが、和文についても独自に研究されており、よくもまぁと調べられている。

今井直一著『書物と活字』

これを読むと、明朝よりゴシックが読みやすいというのは誤りだとか、字を大きくすりゃ読みやすくなるわけではないとか、いろいろな事が判ってくる。例えばヒトの目の視野はそこそこ広いが、はっきりと視認できる範囲はかなり狭く、そこから外れると「何かある」という程度の認識しかできず、文字の場合まず読むことはできない(試しにこの行を見たまま、上下の行を読んでみてもらいたい。読めるだろうか?)。字を大きくすると、字そのものは「見やすく」なるが、一度に見られる文字数は減るため、文意は把握しづらい。「文章を読む」には目を頻繁に動かさねばならなくなり、結果やっぱり読みづらいのである。文字を大きくするにも限度があるということだ。ウチの68歳のオカンでも実験したが、手元で読む冊子の場合、リュウミンRで13級もあれば難なく読めるそうだ。12級で一瞬ピントがずれるが、それでもまぁ読めるらしい。14級はそりゃ読みやすいが、今度はデカ過ぎる。ここまでデカくする必要はないのである。行長と行間、字と地の色に気を配れば、12級でも高齢者が読みやすい組版は十分可能だ。

この本は、特に高齢者向けのものをよく作っているデザイナーに勧めたい。そういう人たちは、何かにつけ「字をデカくしろ」「太く(or ゴシックに)しろ」と言われて困っているのではなかろうか。そういう単純なアタマしか持たない人たちを打ち負かす理論武装のため(笑)、ぜひともお勧めしたい一冊である。日本の古本屋あたりで探せばいいだろう。ちなみにこの本、限定版やら普及版やらがあり、それによって金額が大幅に違うのでご注意を。さらにちなみに装丁は、「ブックデザインの神様」とまで言われた原弘の手による。

もひとつちなみに、ヤン・チヒョルトMeisterbuch der Schrift が同じタイトル『書物と活字』として日本語訳が出版されているが、お持ちの方は内容がどうにも「書物」と関係ない事に気づくと思う。それもそのはず、原題に「書物(buch)」と「活字(schrift)」という単語はあるが「と」などという接続詞はどこにもなく、derは定冠詞、英語で言うtheである。meisterbuchは元々meister(マイスター=master=マスター)とbuchであり、schriftは英語で対応する単語はscriptだろう。しかしこちらは「手書き」の意味が強いため、同じ手書きでも「レタリング」ぐらいがいい。とどのつまり、『レタリングマスターブック(修練帳?)』ぐらいが適訳かと思われる。あるいはmeisterbuchそのままに「すごい本」に解釈し、『書体大鑑』とかでもいいだろう。現に英訳は Treasury of Alphabets and Lettering(アルファベットの宝庫とレタリング)なので、両案合わさった感じである。とにかく『書物と活字』では「本」と「字」という単語を取りあげただけで、的外れ甚だしい。他にもこの邦訳本には色々と...まぁそれはさておき、内容そのものは素晴らしいので、こちらも合わせて入手されたし。

ヤン・チヒョルト著『書物と活字』
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