最近、偶然洋書屋さんで見つけたWedding Invitationsという本を(英語を何とか解読しながら)読んでいる。読んで字のごとく、結婚式・披露宴の招待状の書き方・出し方の本なのだが、よくもまぁこんなテーマで本が一冊書けるものだと感心する。

Wedding Invitations
Jennifer Cegielski. Wedding Invitations.

結構驚くのが、その式のフォーマル度(?)や差出人等により、フォーマットがある程度定まっていることだ。例えば最もフォーマルで古風な例だと、

  1. Mr. and Mrs. John Graff
  2. Request the honour of your presence
  3. at the marriage of their daughter
  4. Julie Kathryn
  5. to
  6. Stephen James Plzak
  7. Son of Dr. Louis Plzak, Jr. and Mrs. Judith Plzak
  8. On Wednesday, The Twelfth of July
  9. Two Thousand and Six
  10. at two o’clock in the afternoon
  11. Sants Peter and Paul Church
  12. West Chester, Pennsylvania
  • 1. Host line: 差出人は花嫁の両親名義で、父親のフルネームで署名する
  • 2. Request line: 決まり文句「ご出席を賜りますよう…」的な意味。honorは英国風にhonourとする
  • 3. Event line: 式なのか披露宴なのかそれとも両方か。例は式
  • 4–7. Bride and Groom lines: 常に花嫁の名前が先。この場合花嫁の両親が差出人なので、姓と敬称は省く。5行目、式の場合はto、披露宴の場合はand。次に花婿。やはり敬称はなし。7行目花婿の両親の名前。相手方の両親なので二人ともフルネームおよび敬称あり
  • 8–10. Date and Year lines: 年月日は数字を使わず、スペルアウトする
  • 11, 12. Location line: それが行われる場所

となる。他にも封筒や同封するカードなどにも色々ルールがある。しかしいつもこうではなく、ガーデンパーティなどカジュアルな式にはもっと砕けた表現をしないと、出席者が場違いな服を着て来てしまうので注意しなければならない。これらは実践に必須の知識であるにも関わらず、タイポグラフィの関連書籍を漁っても、こういった記述はまったく見つけることはできないだろう。いくら書体に詳しくても、マナーに無頓着では実践で恥をかく。

以前、嘉瑞工房の高岡昌生氏に、ディプロマ(diploma:賞状類)についてお答えを頂いたことがある。だいぶ前だが、雑誌「デザインの現場」の「工場へ行こう」という連載にて、嘉瑞工房に取材に行った高橋正実さんが「ディプロマ作りたい」と言ったら「ああいうものは遊びで作るものではない」とぴしゃりとおっしゃられたので、ではどういうものなのだろうとどうしても知りたくなったのだ。そこで小林章さんへ質問した時(『Futuraとナチス』参照)、ついでにこの事も一緒に質問したら、小林さんが高岡さんご本人に転送され、直接ご回答頂いたのである(もちろん冷や汗かいた)。

答えを簡単にまとめると、「ディプロマはデザインするものではない」というものだった。あれは贈る側と受け取る側がどういう者で、どういった理由で贈るのかという事により、フォーマットやふさわしい書体、オーナメント類がある程度定まってくるものなのだという。例えば冠婚葬祭にGパンを履いてくる人はいない。やはりフォーマルな装いをしなければならないが、かといって全員が同じ服を着ろという事ではない。服装選択の自由はある。しかしその範囲は限定されている。それと似たようなものらしい。

ディプロマには書体の知識はもちろんの事、贈り手と受け手がどういう活動(職種・業種その他)をしている人(あるいは団体)なのかの知識と、贈られる内容の理解、贈られるシチュエーションでのマナールール等をすべて知らないと作れない。タイポグラフィの中でも最高レベルの技術と知識が必要なものだそうである。アンチョクにひょひょーんと作っていいものではない(というか作れない)ものなのだ。

このようにタイポグラフィは、書体の知識がいくらあってもそれだけではダメである。ソムリエがたくさんの種類のワインを覚えるのは、決して知識をひけらかすためではなく、客と料理とシチュエーションにふさわしい最高の一本を選び出すためなのだ。より高度なタイポグラフィを志す者ならば、このWedding Invitationsは読んでおくべき一冊だろう。しかし日本のマナー本も記述がまちまちであるように、この本もすべてを鵜呑みにすることはできない。その辺は関連書籍をあたるなり、機会があれば実物を見るなりしてきちんと自分で検証して欲しい。

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