どうも、最近はヨリちゃんに脈診してもらいたい宮里です。

最近、『開運! なんでも鑑定団』でおなじみの、「古伊万里の値段はこの男が決める」とまで言われる中島誠之助氏の著書、『ニセモノ師たち』を読んだ。そのすさまじいまでの知識量と、どんなモノであれ良い点を見つけだして褒めるその姿勢は、自分ではモノを作らずあれこれ言う批評家ギライの私でさえ感嘆するばかりである。尊敬できる批評家というのは大変少ないと思うが、中島氏こそはその第一人者と思える方だ。モノをみる(見・観・視・診・看)ことのプロ、そんなのが成り立つのか、と驚きさえ覚えてしまう。

とテレビでお姿を拝見する度、常々思っていたのだが、この本を読んでその見方が一変した。この中島誠之助、好々爺然としていながら、実はとんでもないジイさんである。骨董の裏社会というのは、生き馬の目を抜いては牛にはめ込んで売り飛ばすといった具合にそりゃもおどろっどろで、ビオレのふくだけコットンをもってしても一発で拭えないほどであり、その裏をかいくぐってきたこの中島、決してタダの好々爺ではない。それでもこの人が健康な感じがするのは、決して故意にニセモノを扱うことはしなかったからなのだろう(意図せずしてはあったらしい・笑)。

そのウラの部分は実際に読んで欲しいが、モノの見方に関する大変示唆的な記述があったので引用したいと思う。ちょいと長いが、よく読んで欲しい。

仮に志野茶碗が展示されていたとします。すると、土が艾土である、裏の土見せの部分が三角形(タバコのハと呼ぶ)である、鉄釉で絵が描いてある、口縁の作りが山道(凸凹した状態)になっている、碗全体が深く筒形になっている、釉薬がなんとなく白くなっている、何度ぐらいの温度で焼かれたか、そういう能書きばかり覚えてモノの本質を見ていないのです。だから古志野に見られる約束事をすべて取り入れて能書きどおりに作った完璧なニセモノが出てくると、軽くひっかかってしまうといえます。

知識すなわち学問が土台になって、その上に美が成り立っているというのはアンバランスです。美しいな、いいなという感動が土台になり、その上に知識や学問が成り立っているのでなければ、美の探求によって得られる美意識の完成というバランスは崩れてしまうと私は思います。

(中略)

真贋判定のカチマケは、身体で覚えた、感性で覚えた人が勝利します。だから最初にホンモノを見るという勉強をする。本や説明書を見て覚えるのではなく、まずはよいモノを一生懸命見ることが勉強で、若いうちにそういう勉強をしなければ一人前にならないとよくいわれたものです。

これはそのまま、タイポグラフィの世界にも大変良く当てはまる事ではないかと思う。最近、とあるBBSにて「文字を横方向に組む場合、長体をかけると可読性は低下するのか」とか「Helveticaに長体をかける場合、何%が限界か」などという質問が出た。それに対する答えにまたその根拠や出典は何かとか、それは見出しだけかそれとも本文にもかというやり取りが繰り返された。

実に不毛で間違ったやり取りである。学問、知識が先に立っているのだ。文字を組んで、自分の目で「見て」、それが美しければそれは正しいのである。決して「誰それがそう言った」というような能書きに惑わされてはいけない。もしどこかで見た記述に従ったのであれば、それはその記述をした人の作品になってしまう。自分の作品ではなくなってしまうのだ。

どんな権威が書いた論文・著書であろうと、確実に「片寄り」が存在する。何かを重んじ、何かを軽んじた内容になっているはずだ。それはその人の価値観に立脚するものであり、あなた自身の感性とは違う。だから質問者の、知識を得ようとする姿勢は良いとは思うが、何かの論拠に決定権を預けようとする事は誤りである。プロならば、決定はいつでも自分自身の審美眼と責任において下すべきだ。

タイトルの「チブル星人」とはウルトラセブンに出てきた怪獣で、宇宙一の知識を持っているとされ、頭でっかちの昔の火星人のような姿をしている。実は「チブル」とは沖縄方言で「頭」の事であり、ウルトラマンの脚本家、金城哲夫は出身地である沖縄の方言を使用して名前を付けたようである。

タイポグラフィは、とかく知識だけが先行しがちな分野である。しかし、まず書体を見ること。美しい組版例を見ること。それがまず一番最初にある。それから知識を得るようにしなければ、チブル星人になってしまう。『ニセモノ師たち』には、親子二代で大変な知識量を持ち、素晴らしい論文を書くにも関わらず、扱うモノはすべてニセモノ(本人たちはニセモノと気付いてない)という骨董屋親子が登場する。そんなチンプンカンプンなチブル星人にならないよう、タイポグラフィに携わる人たちには是非ともこの本を読んでもらいたい。

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