先日、2年ぶりに東京へと足を運んだ。去る8月23日、竹尾見本帖本店にて行われたLinotype小林章氏と嘉瑞工房高岡昌生氏のトークセッション、『techno-practica: レターヘッドとタイプフェイス』に参加するためだ。抽選だったので当たったら行こうぐらいの気持ちで応募していたのだが、高岡さんが特別に招待して下さったので、慌てて飛行機とホテルを予約した次第である(ちなみに私の泊まったそのホテルは、何の因果かサインの欧文すべてがOptimaだった・笑)。

これと合わせ(てかどうかは判らないが)、その前日の22日、美篶堂近くのカフェにて小林さんの著書、『欧文書体』(増刷決定!)の出版パーティが行われ、それにもお招きいただいたので、ささやかな手土産を携え厚かましくも出席させていただいた。小さなカフェで出席者も20数名程度だったが、オリジナル書体で賞を獲ったTさんとかA誌専用書体をデザインしたSさんとか書体制作J社のOさんとかグラフィック界の大御所K先生とかD誌でよく見るTさんとか毎月読んでるW誌のコラムのNさんだとかが出席しており、何の実績もない私は、やっぱりJAGDAのパーティの時と同じく「ひょええ」と萎縮してしまい、ぽつーんとすることが多かった。

それでも以前、ひょんなことで3、4年前に1、2度手紙のやり取りをさせていただいたK先生には思い切って声をかけてみた。嬉しいことに私のことを覚えて下さっており、「いやーこんな所で会えるとは!」と握手していただいた。K先生は嘉瑞工房や美篶堂と関わりがあり、もしかしたら出席されるのではと思っていたが直接お礼が言えてよかった。

とはいえやっぱりぽつーんとすることが多かった私を見かねたのか、お声をかけて下さった方がいる。重蔵先生である。昌生さんのお父上である重蔵先生は、嘉瑞工房を興された井上嘉瑞(よしみつ)その人の唯一の直弟子で、御年84になられるがまだまだお元気な老紳士だ。

まさかいらっしゃるとは思わず、感激して喜んでお話しさせていただいた。ワインを片手に、時折ウィンクしながら見せる笑顔はとてもチャーミングで、私は話をひとつも聞き漏らすまいとあれこれ尋ね、また相づちを打っていたが、そうこうする内に時は過ぎ、気が付くとパーティの後半2時間近くを私が独り占めしてしまっていた。他にも重蔵先生にお話を伺いたい方がたくさんいらっしゃったかと思うが、この場を借りて謝っておきたい。

「老人は十の言葉の内に一つは金言を言う」というが、会話中一つどころか七つも八つも乱発される金言を、私はとにかく拾いまくっていた。この時ばかりは全日本女子バレーキャプテンの竹下よりもレシーブがうまかったと思う。あっという間の2時間だったが、私は抱えきれないほどの宝物を持ち帰ることができた。

欧文書体に興味を持ち始めて10年余、ようやく何かタイポグラフィを勉強するスタートラインに立てた気がする。この宝物は私だけのものだ。皆さんは自分なりの宝物を探し当てて欲しい。しかし独り占めするのも何だか気が引けるので、同好の士にひとつだけ宝物をお裾分けしよう。

重蔵先生はこうおっしゃった。

少しずつでいいから続けること。
そして歩みをやめないこと。
口一杯、いっぺんに頬張ったって、
噛めもしないし飲み込めもしないのだから。

最近また、『ローマ字印刷研究』を読み返している。何年も前から何度も読んでいたはずなのに、今になって気づくことがたくさんあるのに驚いた。私は読んではいても、理解してはいなかったのだ。先生のおっしゃったことは、たぶんこういうことなんだろうと思う。これからさらに英語を上達させ、欧米の文化へも目を向けていきたい。

こういう機会を与えて下さった高岡さんや小林さん、『デザインの現場』のMさんやデザイナーのTさんらに心から感謝したい。ありがとうございました(付け足しになってしまいますが、もちろん翌日の竹尾でのトークセッションもためになりました)。

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