『芭蕉紙(ばしょうし)』という紙がある。琉球王朝時代に作られた沖縄独特の紙だ。芭蕉布(ばしょうふ)というこれまた沖縄独特の布があるのだが、その材料となる糸芭蕉の、糸とはなり得ない余りの部分を材料にして作られている。丈夫ではあるが、茶色の濃い、しかも繊維のかなり荒い紙である(琉球泡盛王国のバックにスキャンして使ってみた。色は調整してあるが、参考までに)。現代ならファンシーペーパーとしての使い道もあろうが、筆記・記録用紙としては決して優秀とは言えない紙だ。それでも琉球が自前で紙を生産することは意義があったらしく、これを用いた書物も作られていた。

この紙も他府県の和紙同様、明治に入ってからは衰退し、第二次大戦以降完全に途絶えていたのだが、和紙で最初の人間国宝・安部榮四郎が復活を願い、その意志を継いだ弟子・勝公彦(かつ ただひこ)が実際に首里にて復活させ、現在は安慶名清(あげな きよし)さんという方が「蕉紙菴」という工房で芭蕉紙を漉き続けている。

しかし紙というのは、それ単体ではあまり魅力的な商品とはいえない。何かに加工されて初めて活きてくるものだろう。芭蕉紙は今、便せんや葉書、封筒、名刺用紙などに加工されて販売されている。他には、ちょっと検索してみたが、ランプシェードに利用されているぐらいのようだ。

大変口が悪くて申し訳ないのだが、このままでは、遅かれ早かれまた途絶えてしまう可能性が高いと思われる。しかし他の和紙も同じ状況のようだ。『デザインの現場』2005年6月号には、『美濃和紙リ・プロデュース・プロジェクト』という記事が掲載されていた。岐阜県が、5年で若手が食べていけるようにしてくれと、佐藤眞富さんというプロダクトデザイナーに依頼してからの経緯が記事になっていたのだが、成果が思わしくないというのである。様々なデザイナーに声を掛け、美しい製品を作り出し、大々的に展示会を行ったのだが、展示会そのものは大盛況だったものの、注文は一件もなかったらしい。どうも和紙は、ノスタルジックな文具等にはよく使用されるものの、大量生産される実用品には向かないようだ。また実際大量生産が決まっても、手漉きであるがゆえの限界もある。現在もプロジェクトは継続中だが、当人の言葉を借りると「真っ赤っかの赤字」だそうだ(展示会の様子は、『かみのしごと』という本にまとめられている)。

本末転倒なのは解る。普通は目的、つまり製品にしたいものが先にあって、それからそれに適合した材料を探し出すものだ。しかし和紙や芭蕉紙復興というのは、まず「材料ありき」なのである。本末転倒を押してでも進めなくてはいけない所に、この問題の難しさがある。

しかしこれが解決できるのは、デザインの力しかないと思う。ぺーぺーのデザイナーに何ができるか判らないが、いつも芭蕉紙のことは頭の隅にある。まだアイディアの芽すら出ていないのだが、ずっと水をやり続けていこうと思う。

■手漉琉球紙工房 蕉紙菴
〒903-0821 沖縄県那覇市首里儀保町4-89
Tel: 098-885-0404

P.S. なんだか知らないが、結構アクセスがあるので追記。実は芭蕉紙に関しては詳しい本があって、安部榮四郎著『沖縄の紙』というのが沖縄タイムス社とアロー アートワークスという所から共同発行されている。実物の紙片が数葉添付された限定150部の大型豪華本として発行されたものだが、今は当然ながら絶版(古本屋で10万円(!)で売られているのを見たことがある)。しかし四六判の廉価版がある。書店には流通していないが、アロー アートワークスのWebサイトから直接購入できるので、各自連絡を取られたい。

■株式会社アロー アートワークス
東京都豊島区東池袋1-47-2
Tel: 03-3981-1772
http://aawbooks.com/
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