アルトゥール・アントゥネス・コインブラ (Arthur Antunes Coimbra) という人に私が抱く印象は、本当に負けず嫌いだなということである。ああみんな知らないか。サッカー日本A代表監督・ジーコの本名だ。別に知ってても偉くない? ああ偉くないさ。俺だってたった今調べたんだからな(えええ)。

彼はJリーグ立ち上げ当時38歳で、もう本国では引退していたにも関わらず、日本のド田舎のチームに快く入ってくれた。大スターの彼がである。「鹿島」なんて聞くと「建設会社?」としか思ってなかった我々に、茨城県鹿島町(現鹿嶋市)の名を知らしめてくれた。相手チームの外国人選手にまでサインを求められていた姿をよく覚えている。初の監督業が日本代表と聞いて、母国ブラジルでは本気で日本への帰化を考えた選手たちもいたという。それほどの大スターだ。

プレーヤーとして超一流だった彼だが、反面マナーの悪さをよく指摘されていた。彼は勝つためなら何でもする。鹿島アントラーズ時代、1点差で勝っている試合終了間際、相手チームのコーナーキックを至近距離で、しかも手を露骨に使って止めたことがある。またある時など、相手チームのPKになった際、審判の判定に最後まで食い下がり、あげくボールに唾を吐きかけ一発退場を食らったことさえもある。

世界的な名声を得た選手ならば、普通はその言動にも紳士的な態度を求められる。そして選手たちもそれをわきまえ、あまり見苦しいことをしようとはしない。しかしジーコは違う。『とんねるずの生でダラダラいかせて』という番組では、よく木梨のチームとフットサルをやっていた。それも最初は手加減するものの、負けそうになると大人気ないほどにムキになって勝ちにいく。そして勝って、笑顔で帰る。ただのバラエティ番組の1コーナーでさえこうなのだ。

彼は「負ける」ことが何よりもキライなのだろうと思う。一流選手には潔さなども必要だろう。しかし彼は、マナーを守るよりも「負け」を徹底的に拒否することにより、「超」一流に上り詰めたのだ。プロスポーツにおいて、敗北は何の意味もないことをよく知っているのだろう。今思い出したが、テニスのマッケンローもそうだった。

彼の母国ブラジルには、「ファベーラ」と呼ばれる場所があちこちにある。極貧の者たちが住む治安の悪いスラム街だそうだ。最近『世界がもし100人の村だったら』という番組の中で紹介された、13歳で出産した少女を覚えている方もいるだろう。ああいった街だ。ジーコはファベーラ出身ではないが、ここの子供たちはサッカーでのし上がる以外、社会的に成功する術はないという。サッカーでの勝ち負けがリアルに、そしてダイレクトに生活と命に関わっている。そういった者たちを、ジーコはおそらく直に見てきただろう。勝ちにこだわるのは、そういったこともあるかもしれない。

どんなにみっともなくても勝ちに行く。「負け」の前には安いプライドなどゴミクズ同然。その「負けず嫌い」が超一流への足がかりなのだ。貧困を知らない日本人選手たちが、そのスピリッツを理解できるかどうかは知らないが、ジーコには何とかがんばって伝えていって欲しい。

ともかく、ドイツ一番乗り、おめでとう。

Charlotte Sans
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